花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

平和で美しく、ご機嫌な地球のために。For Peace, Beauty, and Joy on the Earth.

成功よりも優しさを

言われてみればなるほどと思うが、子どもたちは大人が言うことよりも態度に敏感で、その本音を見破ってしまう。米国での調査結果だが、90%以上の親は子育ての優先順位として、優しさ・思いやりをトップにあげている。一方子どもたちの81%は、親たちは思いやりよりも(子供の)成功や幸福が重要と見ていると話す。つまり私たち大人がどれほど優しさが大切だと思っていても、子どもたちにそのことを十分示せていない、伝わっていない、ということだ。

 

やはりこれも米国の調査だが、1979年から2009年の間に大学生の他人への同情や関心がかなり落ちているという。気にかけないというだけでなく、助けなくもなっている。米国で間違って届けられた郵便物をポストに投函して戻す割合が2001年と2011年の比較で10%落ちた。心理学者は1995年以降に生まれた子どもたちについて、それ以前に生まれた子どもたちと比較して、困った人は助けるべきと考えることは同じだが、そのための行動を起こす個人的な責任を感じる割合が低いと分析する。寄付や慈善活動に対しても同様だ。

 

育てた親が悪いと言われればそれまでだが、背景としてあるのは成果主義によって親たちも社会から成功を求められてきたこと。また伝統的に女子に対して優しさ、男子に対して逞しさを求めてきたが、「男女平等」で両性に強さ・逞しさを求めるようになったことも指摘されている。

口では優しくしなさい、困っている人を助けなさいと言っていたとしても、毎日学校から帰ると「今日のテストはどうだった?」「試合は勝ったの?」と成果・成功を求める質問しかしなければ、親の関心がどこにあるかは一目瞭然だ。もし思いやりの心を育みたいのであれば、「今日はクラス(チーム)のために何か貢献した?」みたいな質問に変えることを心理学者はアドバイスする。最初は「別に。」といったそっけない回答かもしれないが、時間が経って親の関心がそこにあると気がつくと子どもも真剣に「えーっと、授業中にわからないことがあったクラスメートを助けた。」などと答えるようになるかもしれない。

確かにちょっとした会話に一工夫も良いが、より体系的に具体的にどうしていったらいいのか、ハーバード大学院(教育学)の"Making Caring Common Project"では次のような4つのガイドラインを示している。

 

⒈ 子どもや若者は優しさや思いやりを実践する機会を必要としている:人は皆、生まれつき優しさや思いやりを持ち合わせてはいるが、実践しないとその能力は開花しない。クラスのための仕事をしたり、友達の宿題を助けるなど、小さな実行を日々繰り返して、「育てる」ことが重要。

⒉ 「ズームイン」「ズームアウト」:困っている人・助けを必要としている人が身近にいれば、直接話しを聞く「ズームイン。」そして、その様な身近に起こった出来事をより大きな視点で社会の問題、例えば「いじめ」「孤立」、として捉える「ズームアウト。」

⒊ 大人がロール・モデルとなって行動を示すこと:ただし完全である必要はないし、全ての質問に答えられなくても良い。常に繰り返し実践し、「ズームイン」「ズームアウト」しながら優しさの能力を高め、対象を広げ、公平や正義などへの理解と関心を深めていく行動/姿勢が大切。

⒋ 心の迷いや倫理的問題と向き合う:優しさや思いやりを人に対して実践する中で、感じるネガティブな思い、例えば怒り、恥ずかしさ、あるいは嫉妬心などとは正面から向き合う。どのような感情が浮かんできてもOK。それらを受け止めた上で、建設的に対処するにはどうしたら良いかを、時には倫理的な問題にも触れながら一緒に考える。

 

優しさや思いやりの実践とは、突き詰めると、公平性や人権が一人ひとりに保障されるよう気を配り、行動することだ。従って、社会のより大きな、より根本的な問題に繋がっている。他者への思いやりと自分の成功をいかにバランスさせるか。そもそもそれらは本当に相反することなのか。個人にとっての成功の定義とその意味するものは何か。

簡単に解決できる問題ではない。問題の核心は成功と優しさの優先順位を変えられるかではない。いかに賢明に早急に優先順位を変更する原則を確立できるかが問われている。