花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

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ウクライナを2008年からの文脈で眺める - Another view to the Ukraine War

現地時間2/24未明に始まったロシアによるウクライナ侵攻には、21世紀になってもまだこのような行為が行われるのか、と耳を疑った。国連総会でロシア非難を決議したのは当然として、その前の安全保障理事会におけるロシア代表の「すべての責任はこれまでの約束を果たさなかったウクライナにある」とした発言にも重ねて耳を疑った。

 

しかし、2022年2月の現状をスナップショットでとらえれば、ロシアのプーチンによる一方的な蛮行と映るが、2008年ブカレストNATOサミットからの一連の出来事を2014年のクリミア併合含めて続けた連続した映像として見ると、少なくともこの事態は予見できていたし、経済制裁でロシアを屈服させるよりもウクライナの軍事的中立を確保したほうが総合的なリスクを軽減できるという主張にも一理あるという気がしてきた。もちろん罪のない市民を巻き添えにした戦争犯罪を1ミリたりとも軽く見る意図はないけれども。

 

実はこの考え方は7年前の2015年、シカゴ大学教授のJohn J. Mearsheimerが "The Causes and Consequences of the Ukraine Crisis "と題した講演から引用している。彼は全てのスタートを2008年にNATOウクライナの加盟を示唆したブカレストサミットとしている。ロシアは地理的にドイツとウクライナポーランドを介して対峙している。ポーランドが西側に組することが明確になっていた当時、ウクライナがさらに西側の一員になることはロシアの安全保障上の脅威となっていた。この見方は冷戦時代のバランスオブパワーの論理であり、冷戦後の外交とは一線を画すと思われがちだが、ロシアは違うし、Mearsheimer教授も外交の現実はまだその冷戦時の理屈で動くとみている。その証左がクリミア併合だ。ブカレストサミットの後、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が2014年2月の「オレンジ革命」で本国を追われ、新政権は少数派言語(ロシア語)を禁じる暴挙に出た。ロシアはその政策に代表される一連の政策が、ウクライナ東部のロシア語圏の人々を苦しめるばかりか、NATO加盟へのステップとみて警告した。しかしウクライナ政権が原状回復に応じないとして翌3月にクリミア併合に打って出た。

 

歴史は繰り返す。今回のウクライナ戦争は、クリミア併合と同じ論理で、しかしより大規模に繰り広げられている。西側は経済制裁を強化してプーチンを追い詰めようとしているが、プーチン側にも上記のような理がある。本人が核兵器使用をちらつかせているように、最大の脅威は経済制裁で追い込まれたプーチンが、軍事的に降伏せずに核兵器使用に踏み切ることだ。もともとウクライナは米国にとって軍事的にも経済的にも最重要地域ではない。ドイツなどEU諸国にとっても然りだ。しかしロシアにとってウクライナNATO加盟は死活問題なので、一番双方に利のある解決策はウクライナの軍事中立化を約束して即時停戦することだと教授は主張する。

 

教授は7年前の講演後の質疑応答で、米国にとっての本当の重要地域は、東アジア、中東であって、欧州はすでに過去のものであるとした上で次のようにも語っている。米国が世界一で唯一の超越的軍事大国である現在は、どのような外交的失敗も許容できる。しかし今後一番の脅威は中国の台頭であり、リスクの高い地域は第一に台湾、第二に南シナ海、そして最後に尖閣諸島だと。その話を敷衍すれば、このまま経済制裁でロシアを追い詰めて核使用に至ること。その後の世界の不安定さに乗じた中国、台湾、そして日本のナショナリズムの台頭で、アジアの火種に着火するリスクも孕んでいる。

 

世界の知性と理性が、この流れを食い止めることができるか?ウクライナ戦争の休戦が喫緊の課題であるが、その先を見据えて長い歴史の文脈に照らしたグローバルな連帯が問われている。

 

youtu.be

 the R. Wendell Harrison Distinguished Service Professor in Political Science and Co-director of the Program on International Security Policy at the University of Chicago, assesses the causes of the present Ukraine crisis, the best way to end it, and its consequences for all of the main actors. A key assumption is that in order to come up with the optimum plan for ending the crisis, it is essential to know what caused the crisis. Regarding the all-important question of causes, the key issue is whether Russia or the West bears primary responsibility.