花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

平和で美しく、ご機嫌な地球のために。For Peace, Beauty, and Joy on the Earth.

3年で51倍(10km→514km)の距離に挑む【変態三部作 第二話(その3)】A Trilogy of My Transformation - Episode 2−(3)

2018年の「川の道ハーフ254km」完走後、フル514kmに向けての始動は早かった。それはハーフを走って、自分の走り方への疑問(危機感)と改善への気付があったからだ。

 

当時の僕の走り方は踵から着地するヒールストライク走法。

「ヒールストライク走法の特長は、接地した後、地面からの反発力を利用しながら、前への推進力を得て走る…(中略)…シューズの機能に頼りすぎた走りになってしまいがち…(中略)…走るための筋力を鍛える効果は低いと言われています(ミズノのホームページより)」

シューズの底を見ると外側が踵から小指の根元(小指球)にかけて削れて、踵の溝が一番早く無くなる。しかも利き足(右)の方が明らかに大きく削れている。つまり右脚の受ける衝撃が左よりも強い。整体院でマッサージしてもらうと、決まって右脚の方が痛かった。

川の道で最後の20kmくらいは足を引きずるように歩いていたので、フォームを根本的に見直さないとフルは走れないと思った。

改善への気付きは、ワラーチ・ランナーから得たものだ。川の道で最初の夜間走を一緒に走った女子ランナーがワラーチを履いていた。話を聞くとワラーチで扁平足が治ったという。僕の走り方の癖は扁平足にも一因があると考えていたので、ワラーチを試さなくてはと思った。ワラーチは市販されているものが極めて少なく、ワークショップなどで自分の足に合わせて自作するものと知り、一番早く開催されるワークショップを探した。5月末に一足作って、6月初旬の奥武蔵ウルトラ(オクム)78kmで試した。後で別のワークショップ主催者Aさんにその話をすると、叱られた。「走り方がシューズと違うので、いきなり長距離走って怪我されるのが一番困る。ワラーチが脚に悪いって宣伝になってしまう。最初は散歩くらいから徐々に慣らしていくものよ。」しかし、兎にも角にも時間がない。作った直後に20kmほど走ってみて(これもAさんには不評だったが)いい感触だったので、トライしたのだった。なんとか完走!

オクムで走っていると、ワラーチを知る人はよく声を掛けてくれた。そしてAさんの話がよく出てくるので、レース後早速Aさんのワークショップに参加してマンサンダル(マンサン)というワラーチに出会ったことが、僕のランニング・フォーム改善の決め手になった。マンサンは、ソール厚5mmと薄く、踵着地は痛くてとてもできない。ヒールストライク走法からフォアフット走法に変えるための、矯正ギブスの役割を果たしてくれたのだった。

7月初旬の8時間耐久レースでは中臀筋に痛みを感じて、地元整体院提供のマッサージサービスをレース中2回も受けたものの、なんとか走り切った。このまま津軽を完走して川の道へという夢を描き始めていた。しかし世の中そうは甘く無い。

津軽ではロング263kmに挑んだ。龍飛埼への憧れがあったのとマンサンでフォーム改造中の実力を試したいという気持ちからだ。最初の60kmくらいまでは順調で、ランナー仲間にフォームが綺麗になったと褒められるほどに違いが出て、いい気分で走っていた。60km、80km、と進んでいくと足裏に痛みを感じ始めた。90kmあたりになるとスピードがガクンと落ち歩きを入れなければ進めなくなってきた。100km地点のエイドで休憩して走り出すも、激坂を登る途中でまた痛み出す。ついに途中棄権(DNF)となってしまった。フォアフットを意識するあまり、踵を浮かし気味に走ったせいで、足底筋に負荷がかかり過ぎたのだった。足裏はどこから先に着地しようと最終的には拇指球、小指球、踵の3点全てが着かなくてはならない。この原則を理解していなかったための失敗だった。

ワラーチ走での問題は他にもあった。一つは先にも触れた中臀筋の痛み。もう一つはワラーチの紐(パラシュート用ナイロンコード、略称パラコード)が走行中に切れることである。

中臀筋は脚を捻る時に使う筋肉。人間は本来、走って脚を前に出す時に外側に捻り(外旋)、着地する時に内側に戻す(内旋)。これまでは外旋/内旋ができていなかった。走法の違いからくる痛みではあるが、これまで使えてなかった筋肉をようやく使えるようになったことを意味する。

パラコード切れは、足で地面を蹴る癖から来る。ジャンプするように着地した瞬間に地面からの反発力を使ってトンと離地すれば理想的だが、ついつい力が入って地面を蹴ってしまうと余計な摩擦を生む。だから切れる。

中臀筋は筋トレで補強しながら、パラコードは「蹴らない」意識をもちながら、とにかく距離を踏んで慣らすしかない。9月のみやぎ湯めぐり95km、10月の四万十川ウルトラ100km、そして他の大会も練習も、氷点下にならない限りは全てマンサンで走った。

そして川の道2019フルを迎える頃には、シューズよりマンサンの方が楽に感じられるほどになっていた。素足に履くオープンエアの開放感。長距離走って足が蒸れることもなく、浮腫んで大きくなっても柔軟に対処できる。「蹴らない」走りなら摩擦が少なく、マメとも無縁である。そして何よりもフォアフットの「足に優しい」走りで、太腿やふくらはぎなどの大きな筋肉を痛めない。本番は、氷点下の可能性がある山間部はシューズにしたが、スタートから最初のレストポイント(RP)までの152kmと最後のRPからゴールの121kmはマンサンで走った。

一番の危機は、最初のRPでシューズに履き替えて20kmほど走った志賀坂峠で、右足に大きな豆を作ってしまったこと(笑)!10kmほど先の上野村「川の駅」で早目の手当てをして、難を逃れた。水洗いだけで手当てできるキズパワーパッドは優れものだと感心した。

白状すると最後のRPスタート前に、足底筋の痛みを感じてシューズにするか迷った末、マンサンにしたのだが、その時念の為に痛み止めのロキソニンテープを両足に貼った。ゴール前20km地点では関門時間を1時間勘違いして、「間に合わない」とパニックになりかけた。ゴール直前5kmは半分寝ながら仲間について行って、なんとか関門時間30分前の131時間29分53秒でゴールした。本州横断、東京湾から日本海の514kmを走り切った。2016年9月にマラソン完走を決意した時は、10km走ることがやっとだった。それから2年8ヶ月。51倍の距離を走ることができるなんて、全くの想像外だ。すっかり暗くなったゴールのベンチでビールを飲みながら、途中のチェックポイント到着時間を申告し、しみじみと自分の「変態」ぶりに酔いしれた。(第二話終わり)