花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

平和で美しく、ご機嫌な地球のために。For Peace, Beauty, and Joy on the Earth.

Delayed Gratification 満足の遅延

先週末(4/3−4)は前週に続いてウルトラマラソンを走っていた。陸上競技の正式種目「マラソン」の距離、42.195kmを越えて走る競技を一般にウルトラマラソンと呼ぶが、初日は80kmを制限時間12時間30分、2日目は56kmを9時間以内で走る大会だった。その前のレースは206kmを制限時間36時間で走った。個人的には160kmで途中棄権したが、季節外れの暑さもあって完走率50%ほどの過酷なレースとなった。ウルトラマラソンは、その距離といい時間といい、未経験者には楽しさや参加する理由が、直ちに想像し難いスポーツの一つかもしれない。

 

そもそも人間はそんなに長い距離・長い時間を走れるものなのか?その辺りについては前回/前々回のブログで既に書いた。人間は生き物の中でもっとも長距離走に長けている。走ることで、ここまで生き残ったのであり、生物として走ることに快楽を感じるようにデザインされている。まさに Born to Run 、なのだ。

 

とは言え、21世紀の現代を生きる人類は、既に他の生物に対する優位性を獲得して長く安住してしまったため、多くの人にとって走ることは苦痛に近いかもしれない。少なくとも快楽ではない。走っているとき「休みたい」「ビールが飲みたい」と言った衝動に駆られることはしばしばだ。それでも我慢して完走を目指すのは、そこにより大きな満足を感じるからだ。ランナー、とりわけウルトラマラソンランナーにとっては完走こそが、喜びであり、走る目的と言っても過言ではない。ごく一部の速さを求めるトップランナーは例外として、である。

 

表題にした Delayed Gratification は満足遅延耐性と訳される心理学用語で、目先の欲求に対する遅延耐性。短期的な欲求を遅延させることで中長期的により大きな結果を得る能力のことである。ウルトラマラソンランナーは時に24時間を遥かに超えて、「川の道フットレース」のような制限時間132時間(5日半)で520km走る大会にも参加する。Delayed Gratificationが求められる大会だ。

 

成功の鍵は、Delayed Gratificationを単なる我慢強さと捉えるのではなく、遠回りを楽しむ能力と再定義することだ。東京から新潟に行くために新幹線を使えば2時間程で着く。目的地に辿り着くためには決して効率的ではないけれど、遠回りしたからこそ得られるかけがえのない経験も多くある。長い時間軸の上でこそ紡がれるストーリーや積み重なるシーンもある。レース中に出逢う人びと、自然や土地の歴史、風景、自分の身体に起こる変化などをひとつひとつ楽しむ事ができれば、体力的にも精神的にも厳しい経験もするであろうが、最後に大きな喜びが得られるのではないだろうか。

 

「川の道フットレース」は4月30日朝9時に新木場駅をスタート。葛西臨海公園の荒川河口を経由して荒川に沿って北上し、埼玉県秩父市群馬県上野村を通って長野県に入る。荒川の源流は甲武信ヶ岳だが、山梨・埼玉・長野県境にあるこの山を水源として北に流れる川に千曲川がある。ランナーたちは県境を越えるあたりから千曲川に沿って旅を続け、やがて新潟県信濃川となる大河に導かれて日本海、新潟へと足を進める。5日半後の5月5日夜9時までに、何人が辿り着けるか、本州最長の満足遅延耐性テストが行われようとしている。