花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

平和で美しく、ご機嫌な地球のために。For Peace, Beauty, and Joy on the Earth.

Moments of Truth - 真実の瞬間、に集中する

真実の瞬間(Moments of Truth)とは、元々はスペイン語の Momento de la verdad闘牛士が牛にとどめ剣を刺す瞬間)から来ていて、物事の成否を決める瞬間を意味する。経営学では、顧客が企業または商品・サービスの価値判断をする瞬間として、80年代にスカンジナビア航空を再建したヤン・カールソンが提唱し、マーケティングでよく使われる。

カールソンが航空会社の良し悪しは顧客と接する最初の15秒で決まると喝破したように、物事の成否は案外瞬間的に、ある意味シンプルに、決まるものだ。

本屋に行けば解説書が山と積まれているゴルフにしたって、思い通りの方向と力をボールに与える方法をあれこれ悩むわけだが、全てはクラブがボールに当たる瞬間をどう迎えるかと言うことだ。当たる瞬間に影響を直接与える部分以外は、どうでもよいことなのに、不思議とそのどうでも良いことにページ数を割く解説書(またはYouTubeなどのビデオ)のいかに多いことか。読者も従って、直接影響を与えるわけではないクラブの挙げ方や打ったあとのフォロースルーなどを事細かに解説書(ビデオ)通りやろうとして、できるのできてないのと騒ぎがちだ。

ランニングにおける真実の瞬間はどこだろうか?

背筋を伸ばせ、骨盤を動かせ、ストライドを伸ばせ、などといろいろ言われるが、ポイントは足の着地と離地の瞬間である。ランニングは片足ジャンプの連続だから、宙に浮いた自重を丸ごと受け止めて着地し、その時に受ける地面からの反発力をこれまた丸ごと使って素早く離地して、体を宙に浮かす(ジャンプする)ことが最も重要だ。

その際に利用するのは「伸張反射」、脊髄反射の一つで脳からの指令による筋肉運動よりも速く動く(反応する)機能だ。着地とともにアキレス腱やふくらはぎが引き伸ばされて、そこで蓄えられた弾性エネルギーが離地の瞬間に解放される。このパワーを飛ぶ力に、ロスを最小限にして、換えることで、より速く、より楽に走ることができる。

伸張反射は脊髄反射だけに鍛えることは難しい。しかし、瞬発力を高める訓練いわゆる「プライオメトリック・トレーニング」で効率を高めることはできる。簡単なものとしては片足ケンケンだ。足首やふくらはぎの筋肉はあまり使わずに股関節の屈曲と伸展のみでリズミカルに飛ぶ。つま先のみではなく踵まで必ず着地させることで、重心の真下に着地する感覚や足裏を真下に押す感覚が掴める。また着地していない遊脚の膝の振り出しを上手く連動させると前に向かうスピードが増す。それら3つをケンケンで体感できる。

伸張反射の感覚がわかったら、次は左右の足の切り替えだ。右足を地面につけた支持脚とすると地面についていない遊脚の左膝は右膝よりも少し前に出す。この姿勢から骨盤を前に出すように倒れ込み、倒れそうな限界に来たら左足を支持脚に切り替える。着地した足はすぐに前に向かわせて、ケンケンの要領で真上に飛ぶ。すねが前に倒れこみ、膝が自然にクッションを効かせて曲がる感覚で、身体が前に進む。

この動きは陸上競技のドリルで、「シザース」と呼ばれ、「前でさばく」とか「足を挟み込む」とも言う。ゆっくり地面から数センチ飛ぶことから始める。ストライドも40−50センチメートル程度でいい。「真実の瞬間」の正しい動きに慣れていこう。「人間の細胞は3ヶ月ごとに全ての細胞が入れ替わる」と言われているので、焦らずに。慣れたら徐々にスピードを上げて、気持ち良い走りを追求する。意識するのは地面を力一杯蹴って前に進むことではなく、流れている地面を足裏でタッチしてトントンとジャンプを繰り返す感覚だ。

僕は今、ちょうど気持ちの良い走りを追求しているところだ。走る習慣がついて5年目。42.195kmのマラソンから200kmを超える超ウルトラマラソンまで一通りのレースは完走しているが、還暦を目の前にしてまだまだ成長できると感じている。気持ちの良い走りをより速く、より長く、続けられる自分でありたい。