花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

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リナ・カーン(Lina Khan)米国連邦取引委員会議長!

先週発表された米国政権人事には大きな驚きと期待を感じた。

以下は日経新聞New York Timesから得た情報のまとめだが、民主主義の新たな可能性への挑戦ともいえるこの動きを注目していきたい。

 

バイデン大統領は6/15、コロンビア大学法科大学院リナ・カーン(Lina Khan)准教授を連邦取引委員会(FTC)議長(Chairwoman(*1))に指名した。カーン氏はFTC史上最年少の32歳で資本主義の総本山、米国における不公正取引の監視と消費者保護全般を担うFTCのかじ取りを任される。

 

カーン氏は2017年、エール大学法科大学院在籍中に「アマゾンの反トラスト・パラドックス」と題した論文で、今の反トラスト法(独占禁止法)の枠組みでは現代の市場支配力をきちんと把握できないのではないかという問題を指摘し、注目を浴びた。アマゾンで商品を販売する企業や投資家に聞き取り調査し、書店などの競合が潰れてイノベーションをもたらす市場競争が乏しくなると指摘した。消費者に商品やサービスを安く提供することだけでなく、社会全体を対象に独占の弊害をとらえて取り締まるべきだという主張だ。経済理論モデルに頼らず、現場の声に耳を傾けたからこそ、長年の常識を覆す発想が生まれたという。

 

もともと反トラスト法は、消費者保護と独占禁止を目的に制定されたが、1970年代に米企業が国際競争で苦戦すると、自由競争が生み出した独占には寛容に対応する「シカゴ学派」が主流になった。80年代のレーガン政権下で「強いアメリカが戻った」とされて以降、米国の政策は基本的にその流れを踏襲してきた。

一方カーン氏が属する「ブランダイス学派(*2)」は、反トラスト法の目的がここ数十年、消費者利益の保護に狭められてきたと批判。初期反トラスト法が手をつけたスタンダード・オイル解体などのように、市場構造の保護にも力を入れるべきだと主張している。

 

反トラスト法は、市場で人々の権利を守る「人民の法」だった、とカーン氏は言う。反トラスト法の核となる理念と価値観に立ち戻り、少数の学者による解釈が支配してきた反トラスト法を「再民主化」したい。人々が「独占」とは何かを理解し、自由に議論できるように、論文を経済や法律の知識がなくても理解できる内容にした。ネット上で拡散し、影響力を発揮したのはそのためだ。

 

カーン氏はまた、19世紀後半に米国の資本主義が急速に発展し、独占資本の形成が進んだ「金ぴか時代」とその後の改革から多くの発想を得たと語る。黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター」運動や、下院議員で若手左派の旗手オカシオコルテスなど、改革を求める若い世代の多くが歴史からヒントを得ていると指摘する。

「現在の米国の格差や不公正は、過去の時代と多くの類似点がある」

 

英国ロンドンでパキスタン系の両親の間に生まれ、11歳で両親と共に米国に移住。直後に同時テロが起き、家族が空港で疑いの目を向けられるなどイスラム教徒への偏見を経験したことが「世界や権力への見方に影響を与えた」というカーン氏の生い立ちも多様性を象徴するかのようだ。「この新たな反独占の動きはエキサイティングだと思う。これが実際の変革につながるかどうか見極めたい」と言っていた彼女が規制当局をリードする。現代のオンライン経済での市場支配力を強めるGAFAなどの巨大企業をどう規制し、消費者の権利を守るか、その方向性を支持するとともに手腕に期待したい。

 

(*1)「委員長」と訳す報道もあるが、ここでは原語"Chair"通り議長とした。

(*2) 20世紀初頭の米最高裁判事で反トラスト法を「資本家による産業支配の確立を防ぐ法律」と位置づけたルイス・ブランダイス氏に由来する学派。