花と、空と、リモンチェッロ/ Flower, Sky, and Limoncello

平和で美しく、ご機嫌な地球のために。For Peace, Beauty, and Joy on the Earth.

新型コロナ問題の「これまで」と「これから」

本件は一市民が論ずるには大き過ぎる問題だが、個人的に注目している事を整理しておきたい。

まず、これまでの事実から。
投資家モーガン・ハウンセルが彼の会社のWebサイトで指摘した2つの「重要な経済の話」に頷いた。ひとつ目は、一般家庭の家計は過去最高の状態にあるかもしれないということ。ふたつ目は、パンデミックは経済的格差を大きく広げているということだ。
家計について言えば、2020年はアメリカ史上最高の所得額を記録した1年だった(2020年3月〜11月のアメリカ人の所得は2019年の同時間と比べて1兆ドル多い)。その所得が消費ではなく、借金やローン返済、貯蓄にまわったのも2020年の大きな特徴で、アメリカの預金口座額は1年前と比べて1兆ドル増えている。
新型コロナは多くのトレンドの加速装置となったが、経済的格差においても同じことがいえる。アメリカでは1年前に比べると900万人もの雇用が減少している。しかし、時給28ドル以上稼いでいる人たちにとっては、何事もなかったかのように雇用市場は完全に回復している。時給16ドル以下の人にとっては仕事の25%が消失し、これは大恐慌があった1930年代のレベルに匹敵する。アメリカ人の所得額上位25%の支出は前年比5%減り、下位25%の支出は2.5%増となっている。
2つの正反対のことが同時進行している。全体的に見ると消費者は過去最高の状態になってはいるが、一方で以前と変わらないかむしろ良くなった人がいて、他方、多くの人が最悪の状況に置かれていると感じている。後者ばかりがニュースになるが、両方が真実で、2つの異なる世界が存在すると知ることが大切なのだと考えさせられる。日本でも家計の貯蓄額が増えているとの統計が出ていて、格差についても同じ傾向なのだろう。

ここまでは変えられない、過去に起こった事実である。この先がどうなるのか。2つの動きに注目したい。

一つは香港、台湾、そしてタイの民主化を求める学生たちの繋がりである「ミルクティー同盟。」もう一つは国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」をめぐる企業経営の変化だ。

 「ミルクティー同盟」は首相の辞任や王制改革を求める大規模デモを去年7月から断続的に実施しているタイの学生と中国への警戒感を強める香港や台湾の学生たちとの連携だ。「微笑みの国」として有名なタイだが、その実体は、貧富の格差が大きく、人権を抑圧する軍事政権国家だ。学生たちは政権のみならず、これまで国民の尊敬を集めていた王室をも批判し、民主化の実現を求めている。王室は巨大な富を蓄え、王はその大半をドイツで暮らす。学生にとって王室は、実力よりもコネを優先する既得権益の象徴なのだ。政権側は王室に対する不敬罪を使って学生たちを取り締まり、運動を抑え込もうとしている。香港・台湾の学生の前には強大な中国が立ちはだかる。全体主義政権の下でGDP世界第2位の経済大国にのし上がり、米国を抜くのも時間の問題と言われている。コロナ対策で米国をはじめとする西側先進国(民主主義国)が対応に苦慮する中で、いち早く感染拡大を抑え込み、2020年のGDPを唯一「プラス成長」で乗り切った。パンデミックを前に、全体主義の優位を民主主義国に見せつけた。香港・台湾市民の闘いは、全体主義政権に絡め取られてしまうのかどうかの戦いだ。同時に民主主義全てにとっての戦いでもある。パンデミック対策に見られたような全体主義の優位をそのままにしていて良いのか。民主主義国家自らも彼らの手法を後追いする他は無いのか。人権はどこまで守られるのか。政治的のみならず生き方を問う哲学的な課題をも突きつけられている。「ミルクティー同盟」の戦いは、いわば全体主義対民主主義の戦いの象徴でもある。人権が問題という意味で、米国のBLM運動とも繋がっている。日本に住む自分ができることは限られているが、関心を持って動向をフォローする以外に何ができるのか、考えて行動したい。

もうひとつ、2030年までに達成すべき社会課題解決を目標として定められたSDGsは、グローバル化する世界が直面する地球温暖化、貧困・経済的格差拡大、戦争・テロ、といった問題解決のために、これまでの推進主体だった政府などのパブリックセクターや、NGOなどのソーシャルセクターに加えて企業などビジネスセクターも主体とされている。世論の盛り上がりに社会的価値を追求する経営理論も登場し、投資家もそうした経営を標榜し実行するサステナブル戦略を持つ企業への投資を志向するなど、企業が社会的価値を想像するイノベーションを求められている。社会への貢献は、慈善事業やイメージアップの広報活動ではなく、本業として取り組まなければ市場に淘汰されるほどの重みを持ち始めた。目標の2030年まであと10年となった今年、企業の具体的な戦略が本格的に動き出す。一企業人としてSDGsを真剣に追って行きたい。

上記で言及したように、コロナはトレンドの加速装置なので、ワクチン接種が普及して医療体制も落ち着き「コロナ後」となったとしても、全てが元に戻る事はないだろう。格差が広がっている中で、人権・民主主義の問題とSDGsは、「不要不急」の対極にある重要緊急な人類の課題である。